ローカライゼーションにおけるアクセントの役割
カバナ アンドリュー
日本語翻訳:桑原 謙
Introduction Text
みんなが同じ話し方をする世界
誰もが全く同じ話し方をする世の中を想像してみてください。友達から仲の悪い人までも、同じ口調、抑揚、テンポで話す世界を。もし相手が見えない場合、声で相手を識別することは困難なはずです。そんな世の中で暮らしたいと思いますか?
多くの人にとって、その答えは「暮らしたくない」でしょう。しかし実は、現在日本語から英語にローカライズされているゲームのほとんどは先述したような状況にあります。日英ローカライゼーションは、現在アメリカ英語に独占されていると言っても過言ではありません。たくさんのキャラクターが存在する架空の世界だとしても、未だにアメリカ英語しか聞こえてこない作品が数多く存在します。しかし、英語は国や地域によって多様な種類が存在する言語であり、これらを物語中に織り交ぜることで、ユニークかつ多様性のある世界観を作り上げることが理論上できるはずです。それにも関わらず、現在は一箇所で、同じアクセントを使用したローカライゼーションをが多く行われています。
アメリカ英語が一番無難?
アメリカが世界のエンターテイメントを牽引していることから、一見日英ローカライゼーションにおいてアメリカ英語のみを使用することは合理的に思えます。アメリカ英語に慣れた人たちは、他のアクセントを耳にすると驚いたり、場合によっては違和感を覚えたりするかもしれません。このような理由で、キャスト選びにおいて他のアクセントを話すキャストよりも、アメリカ英語を話すキャストを選ぶ方が無難だと考えるクリエーターもいます。しかし、アメリカ英語を「自然」に感じるのは、アメリカ人に限られるはずです。
アメリカ以外にも数多く存在する英語圏の国々では、アメリカ英語が必ずしも親近感を抱かせるアクセントであるとは限りません。これは、アメリカ英語がアメリカ特有の文化に由来する言い回しや癖を含むことに起因します。
一例として、アメリカでは王室が存在したことがありません。アメリカという国自体が王政に反対する立場で建国されたからです。この点をふまえた上でもし、王族の声がアメリカ英語で吹き替えられていたら違和感を覚えませんか?どんなにアメリカ英語を話すキャストの演技が上手でも、王族という役柄を演じている以上、アクセントが邪魔をしてしまい、歯痒い印象を与えてしまいます。
没入感をもたらすアクセントたち
一方、現代のゲーム業界では、アメリカ英語以外のアクセント話者を起用した著名なゲームがいくつか存在します。モノリスソフト社の『ゼノブレイド』シリーズや、スクウェア・エニックス社の『ファイナルファンタジーXII』は、英語圏以外の地域に由来するアクセントを採用したことで知られ、声優の演技と音声テキストを融合させることでキャラクターに独自の個性を与えています。近年では『ファイナルファンタジーXIV』や『ファイナルファンタジーXVI』においてもこれが採用されています。『ドラゴンクエスト』ではさらにイギリス英語を細分化し、バーミンガムやマンチェスター、ロンドンなどのアクセントを取り入れています。
他にも、レベルファイブ社の『ニノ国』に登場する妖精には、ウェールズのアクセントが取り入れられています。2013年当時、このゲームを介して初めてウェールズのアクセントを聞いたプレイヤーが(特にイギリスやアイルランド以外に住む人々にとっては)ほとんどでしょうし、これによって他のRPGとは異なる、新鮮な体験をもたらしたはずです。このように異なるアクセントを駆使することで、アメリカ英語のみでは成し得ない没入感を聴覚的にもたらすことができます。
弊社の例
ボーナス・ステージでは、コーエーテクモゲームス社の『WILD HEARTS』のローカライゼーションを担当させていただいた際に、日本国内でバイリンガルキャストを起用したレコーディングを行いました。英語版でも日本語版と遜色ない雰囲気をお届けすることができたのは、日本国内でプロダクションを完結させた判断の成果だと考えています。
しかしデメリットも……
もっとも、多数のアクセントを用いることにはデメリットも存在します。アクセントには文化的なハードルがあり、細心の注意を払わないと、からかいやパロディーとして受け取られてしまうからです。また、特定の方言を話すキャストがいない場合、依頼先が分散し、結果的にコストが膨らんでしまうといった問題も存在します。
しかし、このようなデメリットを踏まえた上でも挑戦する価値は十分あります。先ほど述べたような課題は、工夫をすれば解決ができたり、避けられたりできるものです。失敗を恐れず挑戦するべきではないですか?必ず労力に見合った作品ができるはずです!
やめられないゲームを目指して
荘厳な風景、多様な人物やキャラクター、没入感を高める音楽を備えたゲームには、それに見合う音声キャストが必要不可欠です。複数の種類の英語をゲームに取り入れれば、探索し尽くせないほど多様な人々が生きる、完成された世界観を作り上げられます。
同じような口調しか聞こえてこないゲームや、その中に登場する同じような言い回ししか聞こえてこないゲームはもう時代遅れではないでしょうか?積極的に多様性を招き入れることで、英語への新しいアプローチをぜひ始めてみてください。もしゲームを手に取り、新たな世界へ飛び込むごとに、知らない語彙を学び、自己表現の手段も多様になり、言語自体への考え方すら変わってしまったらどうでしょう?
そんな世界に満ち溢れている世の中だったら、コントローラーから手が離せませんよね!
About the Author
Andy K.
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